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緑の楽園 12話

<緑の楽園 12話>
 



 昼食を済ませた三人は、緑の方一行がいる場所から一段下がった沼のほとりに向かった。
 他にも生徒がおり、自由時間をゆっくり過ごしている。沼とはいえ、草花が多く繁っている土地は夏の日差しを浴びて暗い印象はない。
「なあ、そもそも今は北の領土の結界って誰が張ってるんだ?」
 そんな土地を見回しながらルリジオンは不思議な色が混ざった声音で問いかけた。
 ルリジオンの言葉にギャドーは「緑の方の空気結界しかないんじゃないのか?」と不思議そうだ。ミラリヤールもそう思っていたのか、瞬きをする。
 ルリジオンは背後を振り返り、緑の方がいるテントを見ながら答えた。
「……この地、まだ土の元素結界が生きてる」
 低く呟かれた言葉に二人は沼を見る。
「……どういうことだ?」
 ギャドーが戸惑いながら問いかけるとルリジオンはミラリヤールを見て慎重に問いかける。
「ミラリヤール、お前以外に土の純粋な元素を持つ者はいるのか?」
「え? ……僕が知る範囲ではいないと思うけど」
 ミラリヤールの答えにルリジオンは少し考えると人目がない場所に移動するよう二人に目配せをする。張り詰めた緊張感に二人はぎこちなくルリジオンに着いていく。しばらく歩き辺りに人の気配がないことを確認したルリジオンは慎重に口を開く。
「……微弱だが北の領土には土の結界がある。新たに張る者がいないのなら、以前張られた土の結界が生きているとしか考えられない」
 ルリジオンの言葉に息を飲んだ二人。先に我に返ったのはミラリヤールだった。思わず声を上げる。
「それって、兄上が張ったままっていうこと!?」
「しっ!」
 ルリジオンはミラリヤールに向かって声を上げないよう口元に人差し指を立てる。
「ご、ごめん」
 慌てて辺りを確かめながら謝罪したミラリヤールだったが、どうしても確認したいことがあり、前のめりになり小声で問う。
「それって……兄上が生きている可能性があるっていうこと!?」
 ミラリヤールの問いにギャドーが唾を飲む。
 結界は張った人間が死ねば無くなる。
 それが現在もあるとなれば……。
 ルリジオンは大きく息を吐くと首を横に振る。
「分からない。……だが、この土地には土の元素結界がある。それは古いものだ。ミラリヤールの兄上が張ったものなのか、代々の結界の名残なのかは分からない」
 もどかしい表情を浮かべるルリジオンの胸中は、自分がもっと感じ取れたらミラリヤールの兄の行方が分かるかもしれないからだ。
 ルリジオンの言葉を希望と取ればいいのか。新たな火種と取ればいいのか。
 三人は地面を見つめる。
 沈黙を壊したのはギャドーだった。
「一つ聞いてもいいか。ルリジオンに分かって近衛隊長殿達が分からないってあるのか?」
 ギャドーの疑問はもっともだ。それにルリジオンは躊躇いながら、以前聞かされたことを口にする。
「俺は魔族の瘴気に犯されなかったら……次代の緑の方の器の資格があったらしい」
「ぇ………緑の方の器…?」
 現在生きている緑の国の人間は、緑の方は生まれつき緑の方だとばかり思っている。ルリジオンも大臣達の話をたまたま聞いてしまったから知っていただけだ。
 今の緑の方の器に限界がきた時、新たな緑の方の器が現れて四大元素を取り込む。それを聞いた時、ルリジオンは不謹慎ながらも自分が緑の方の資格を失って良かったと思った。
 今の緑の方がいない世界になど生きていたくないから、と。
 ルリジオンから緑の方には代替わりがあると聞いた二人は驚愕するが、我に返るとルリジオンに向かって前のめりになる。
「じゃあさ、ルリジオンにはすごい力があるってことだよな!?」
 ギャドーの言葉に、ルリジオンは目線を下げる。
「いや、すごい力があるというか、元素の純粋度が高いから、他の元素を感じやすいだけなんだ。でも今は……いくら緑の方が瘴気を消してくれたとはいえ、元素は歪んでいるかもしれないから……だから、正解に感じ取れてるかは分からない」
 すまなそうなルリジオンに二人は痛そうに眉を寄せるが、今はすぐに意識を切り替えなければとギャドーは問いかけを続ける。
「じゃあ、ランディエール様とか他の二人の近衛隊長様は気づいてないのか?」
 緑の方同等の元素純度が必要ならば、それもありえるかとギャドーが問う。
「……もしかしたら水の近衛隊長殿は知っているかもしれないけど……でも、緑の方の考えに従っているかも。……他の二人は…気づけていない可能性もある」
 近衛隊長に分からなかったとしても、緑の方には分かる筈だから、と答えたルリジオンは、何故緑の方が黙っているのか考えたくない、と視線を落とす。そんなルリジオンにギャドーが躊躇いながらも呟く。「お前が襲われた事件って、結局犯人分かっていないよな」
 状況だけでミラリヤールの兄が犯人扱いにされているが、真実は明らかにされていない。ルリジオンは顔を上げると以前から考えていたことをとうとう口にした。
「……あの時、地面の元素結界が破られていなかったから、この地に魔族が入れたのは誰かが引き入れたからだとされた。……それが出来たのがミラリヤールの兄上だと。……だけど、他の近衛隊長だって引き入れた後、ここまで連れて来れるよな」
 ルリジオンの言葉に二人は息を呑む。
「ミラリヤールを知れば知るほど、お前の兄上がそんなことするわけないって思った。……そうすると残りの三人…当時のだけど、三人の近衛隊長の誰かが」
「ちょ、ちょっと待てよ。それ……慎重に口にしないとまずい」
 ルリジオンの言葉を遮ったギャドーは真剣な表情で二人を見る。
「憶測で口にしていい内容じゃない」
「……そうなんだけど」
 止められたルリジオンは奥歯を噛み黙ったままのミラヤールを見つめる。小柄なミラリヤールは俯き、表情を窺えない。心配そうにミラリヤールを見る二人は目線を合わせると眉を下げる。
 ルリジオンは当事者とはいえ、緑の方に引き取られ幸せな日々を送っていたが、ミラリヤールは違う。白い目で見られ、後ろ指指され。唯一味方だと思っていた幼馴染みには冷たくされ。
 それを与えた犯人が誰か考えているであろう胸中に二人は声をかけることが出来ない。
 顔を上げたミラリヤールは強い眼差しをルリジオンに向けた。
「兄上の濡れ衣も晴らしたい。だけど、魔族を引き入れた犯人がいまも自由にしているとしたら……この国にまた魔族を引き入れる可能性があるかもしれないんだよね」
 ミラリヤールの言葉に二人は小さく頷く。
「そんなこと、許せない」
 断言したミラリヤールは、あどけない面差しとは正反対に引き締まった表情だ。見た目の想像を裏切り強いと思っていた二人の想像以上の芯の強さを見せたミラリヤールを見たルリジオンは目を細めた。
 必ず犯人を捕まえる、と気持ちを新たにしたルリジオンは何か手がかりがないかと神経を研ぎ澄ます。
 その時、風に乗って歪んだ元素を感じた。
 勢いよく東の空を見たルリジオンにつられ、ミラリヤールとギャドーもそちらを見る。
「ルリジオン? どうした?」
「……歪んだ元素を感じたような気がした」
 今は感じないのかルリジオンが焦れた様子であちらこちらに視線を移す。その時、沼に大きな水音がたった。
「なんだ!?」
「何か落ちたような音だったよな!?」
 見ていなかったが、大きく揺れる水面になにか大きな物が落下したことが分かる。辺りにいた生徒もざわつきだし、緑の方を守る周囲も厳戒体制になる。
「ルリジオン、お前が感じた歪んだ元素は感じるか?」
「分からない……でも、嫌な予感がする。早く離れよう!」
 ルリジオンはミラリヤールとギャドーに告げると教官達が集合をかける声がする緑の方一行の元に足を向けた。
 昼休みで休んでいた生徒達は不安そうな面差しで足早に教官の元に向かう。ルリジオン達の後ろからもまだ数人の生徒達が走ってくる。
 早く沼から離れなければ、と誰もが気が急いていた。そんな生徒達の背後で沼の水面が揺れたかと思うと一気に泥水が天に向かって立ち上がったかと思うとそれがルリジオン達の後ろを走る生徒に向かってくる。
 その様子はまるで泥で出来た龍が襲いかかるかようだった。
 足がすくんで動けない生徒。ルリジオンは咄嗟に風を動かし泥水と生徒の間に空間を作る。
「速く走れ!」
 空間に弾かれた泥水が再び動き出す様子にギョッとするとルリジオンが叫ぶ。だが恐怖にすくんだ生徒の足が止まってしまった。襲いかかる泥の龍。ルリジオンは咄嗟に走り出る。
「ルリジオン!」
 隣でギャドーが叫び、その隣のミラリヤールは――。
「これ以上、北の土地で好きにさせない!」
 叫ぶと沼に走り両手を泥水の中に入れた。
「ミラリヤール! 駄目だ! 早く離れろ!」
 生徒を支え起こし、風の元素で出来た空間を走るルリジオンは叫ぶが、その声が耳に入らないミラリヤールは沼につけた両手に意識を集中させ――
「わぁ…」
 思わず声を上げたのは誰だったか。
 ミラリヤールの手をつけた辺りの泥が生徒を襲う龍に向かって壁を作った。それは縦横共に広がり、泥の龍が当たってもビクリともしない。その光景は、ミラリヤールの力が解放されたことを表していた。
 ルリジオンとギャドーは目を見張るが、そのことに喜びながら生徒達を先導する。だが、前方から駆け寄ってくる銀の光に視線を上げれば見たこともない必死な表情でランディエールが駆けつけて来る。
「ミル! よせ!」
 周囲の目を気にせず叫んだランディエールの声にルリジオンは咄嗟に振り向きミラリヤールを見る。
 その視界で泥の龍を制圧したミラリヤールの壁が崩れ…ミラリヤールの体も沼に向かって倒れこんだ。
「ミラリヤール!?」
 ルリジオンとギャドーは声を上げて駆け寄る。ルリジオン達より早く着いたランディエールは汚れることに躊躇せず沼に足を入れると俯せに倒れたミラリヤールを抱き上げた。
「ミル! ミル!」
 泥で全身が汚れている。それを手で拭い、必死に名前を呼ぶランディエールの姿にルリジオン達は近寄れず足を止めた。
「……ランディエール様のあんな取り乱した様子、初めて見る」
 同じ一族だからこそのギャドーの驚愕。ルリジオンも小さく唾を呑み込み頷く。しかし、すぐに我に返ると水の元素でミラリヤールの汚れを落としているランディエールに駆け寄り側に膝をつく。
「ミラリヤールは…」
「封印を無理やり解いて元素を解放したから、体が悲鳴を上げている!」
 吐き出すように説明された言葉にルリジオンは眉を寄せる。
「封印?」
「駄目だ! 体温がどんどん下がっている!」
 ルリジオンの問いに答えずランディエールはミラリヤールを横抱きにして水の結界内に入ってしまった。
「おい! ちょっと!」
 突然結界に入ったランディエールに慌てたルリジオンは、背後から近づいた元素に肩を揺らす。
「ルリジオン、早急にここを離れるから教官の元に向かいなさい」
 振り向けばトルナードが部下を引き連れ逃げ遅れた生徒達を保護していた。
「……分かりました」
 ミラリヤールが気になるが、水の結界が緑の方の元に着いた光景を遠目に見ると大人しく従う。
 だが、ルリジオンは無意識に二の腕をさすっていた。






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