<誓いの矢 4話 サンプル>

2017.07.02 17:28|同人誌サンプル
*注、同人誌化の為、サンプルとして4話までの掲載になります

<誓いの矢 4話>




 深夜になっても眠れないセンカは雑魚寝状態のテントをそっと抜け出すとリアーナと遊んだ川辺まで来る。すると、馬の鳴き声が聞こえた為、そちらをじっと見つめる。しばらく見ていたセンカの視界に松明の灯がいくつも見えた。
「なんだろう?」
 こんな深夜に訪ねてくる人間なんているのか? と立ち上がったセンカの手首に温かな温度が巻き付く。
「っ!」
 突然手首を掴まれたセンカは跳ね上がるほど驚くが、後ろにいた人物が口を塞いだ為、声を上げずにすんだ。
「静かに。逃げるから急げ」
 小さく耳に囁いたのはカダルだった。
 手首から肩に手を移したカダルは引きずるようにセンカを歩かせる。
「な、なに? 逃げるって?」
 強引に歩かされるセンカはカダルの真剣な横顔に反発心が鳴りを潜め恐々問いかける。
「裏切りがあった」
「え?」
「夕飯後、サラムがいないと思って注意していたら、やっぱりだ。王の兵がこちらにくる」
 カダルの言葉に背後の松明を見る。
 そして、サラムという男の優しい顔を思い出し首を振る。
 夕飯の時、突然現れたセンカに嫌な態度もせず、何度もお代わりはいいのか? と聞いてくれた優しい男だった。
「あ、あの人がうらぎるなんて……間違いじゃないのか?」
 しかし、カダルは子供らしからぬ苦笑を浮かべる。
「見張りが居る場所以外を抜けてきてる。居なくなってるのはサラムだけだ」
 決定的な言葉にセンカは押し黙る。
「とにかく、逃げるから」
 それだけ告げるとセンカの手首を掴んだまま走り出す。現実味が無かったが命の危険を感じたセンカは抵抗することも忘れ、引きずられるように着いていく。しばらく行った場所には馬が二頭おり、ユーシスとワーディが待っていた。
「カダル、早く」
 冷静ながらどこか焦りを感じさせるユーシスはカダルを強引に馬に乗せ自分も後ろに飛び乗る。手首を放され自由になったセンカだったが、ワーディに軽々と馬に乗せられる。やはり後ろに飛び乗ったワーディを振り返った時には馬が走り出す。
「ほ、ほかの人は?」
 走る馬の上だ。舌を噛みそうになったセンカだが、誰も着いて来ないことが不安で問いかける。
「……見つかった場合、まずカダルを逃がすことが最優先になっている。落ち合う場所もいくつかあるが、今回は裏切ったサラムが知っている為……いつ合流出来るか分からない」
「ほかの人もにげられるんだよね?」
「カダルが追跡されないよう……囮になった後な」
「それって……」
 すごく危険なんじゃ、とセンカは唾を飲む。
 一日だが、知り合った人の命が危険に晒されていることに震える。そして、一緒に遊んだリアーナの笑顔が浮かぶ。
「リアーナは?」
 震える声で問いかけたセンカにワーディは答えない。
「あんな子供までみすてるのかよ!」
 無言の答えに最悪な状況を感じたセンカはワーディの腕の中で暴れだす。しかし、太い腕でセンカを支えたワーディは一言「静かに」と告げるとそれ以降は口を開かない。納得いかないセンカだったが、どれ程危険な状況かは分かる為、それ以上は騒がず馬にしがみついた。
 しばらく走ると大陸の中央を流れる大河に出る。
 急な崖を駆け降りたユーシスの馬の後をワーディも続く。真夜中の大河は真っ暗で、まるで地獄に吸い込まれていくようだ。
 恐怖に包まれたセンカはギュッと目を瞑り、身を縮めると冷たい空気に包まれる気配に死を覚悟した。
 かなり急な崖を降りているのだろう、体が何度も投げ出されそうになる。しかし、ワーディの逞しい腕が支えてくれる。
 長いような短い時間。
 ようやく止まった気配にそっと瞼を開けると、大河の途中にある岩が突き出た場所に居た。
「ここは、俺とユーシス様しか知らない。追っ手は巻ける筈だ」
 上を見上げ、こんな崖を下ったのかと改めて身震いしたセンカを馬から下ろすと、先に着いたユーシスとカダルの元に向かう。
「カダルとセンカはそこの洞窟で休め。俺とワーディ殿で見張りをする」
 ユーシスの馬が繋がれた奥にかなり広い洞窟があった。
 そこならば冷たい空気もだいぶ凌げるだろう。
 いまだ、この現実が受け止められずにいるセンカがぼうっとしていると先ほどのようにカダルに手首を掴まれ洞窟に連れていかれた。
 大人がいなくなった空間。するとカダルはどこか投げやりにセンカの手首を放して座ると膝を抱え込む。足と足の間に顔を伏せたカダルが何を考えているか分からずセンカは立ち竦む。
 しかし、黙ったままのカダルを見ていたら、残してきた人がどうなったかという不安に包まれ、浮かんだ言葉を口にしてしまう。
「仲間をみすてるのか?」
 それは洞窟の壁に反響し、思った以上に響いた。
 入り口にいる二人の耳にも入ったようで視線を向けてくる。
 しかし、一度口に出してしまうと止まらなかった。
「リアーナたち、見ごろしにするのかよ!」
 センカの言葉を聞いてもカダルは膝を抱えたまま、なにも言い返さない。
 無視されたセンカは小さな手を握りしめると更に言い募る。
「おまえは守られてばっかりだな!」
 頑なに反応しなかったカダルだが、その言葉に顔を上げた。
 しかし、その表情は暗く、センカは息を呑む。
「……三十人いたんだ」
 三十人。突然口にした人数にセンカは首を傾げながら、嫌な予感がした。
「運命の皇子が北のどこかにいるって噂が流れて、王の討伐が向けられて……その時、村を一緒に出た仲間は三十人だった」
 センカは途中から予想していたが、なんともいえない表情で口を閉ざす。
 センカが会ったカダルの仲間は十人ほどだ。
 残りの二十人はどうした? と問いかけるのが怖い。
「全員が死んだんじゃないよ。十人は王都に潜入して、軍人になってる。王を倒す為に長い計画があるんだ」
 子供の自分では想像出来ない大きな、長い計画らしい、と気づくとセンカは自分が口にした言葉を後悔する。
「だから……俺は死ぬわけにいかないんだ。……俺を逃がす為に死んだ仲間や……父さんや母さんの為にも」
 最後の言葉にセンカは弾かれたように肩を揺らしてカダルを見る。
 その顔にはやはり感情が乗っていない。
 しかし、センカは握りしめたカダルの手が震えているのを見ると奥歯を噛む。
 自分がカダルに向けた言葉がどれ程残酷だったが、子供心に感じ後悔に包まれる。
 しかし、謝ろうとしたセンカが口を開く前にカダルが背を向けてしまった為、謝罪の言葉を発することが出来なかった。
 さっきまでの怒りからくる感情ではなく、後悔から身動きが取れないセンカの肩を包んだ大きな手。振り向けばユーシスが居て目線で外に促される。センカは後ろ髪を引かれながらもユーシスに着いていく。洞窟の外に出たユーシスはカダルの元まで声が聞こえない場所までセンカを連れてくると正面から見下ろす。月明かりに浮かび上がったユーシスの美貌は、とてつもなく冷たく感じた。
 センカの怯えを感じたのか、ユーシスは少し気配を和らげると静かに口を開く。
「……カダルは幸せな子供ではなく、人を幸せにしなければならない子供だ」
 大人びて感じるが、おそらくまだ成人していないだろうユーシスの声音は、センカが知るどんな大人よりも深みがあった。
 怒られるのかと小さくなっていたセンカは顔を上げるとユーシスを見上げる。ユーシスは、どこか痛みを感じさせる表情を浮かべていた。
「……カダルは自分以外を優先することを許されない。大切な人を犠牲にしても生きて王を倒さねばならないことを理解し、周りの期待に応えた行動をしている。しかし、それを平気でしているわけではない」
 静かに話された内容に、子供ながらカダルが背負った宿命の大きさを感じ身震いする。
 自分とたいして変わらない年の子供なのに。
 もし、自分がカダルの立場だったら、と思うと……絶対にあんな風に平気なふりは出来ない、と思った。
 そう、今のセンカには、カダルが仲間を見殺しにして平気ではないことが痛いほど分かっていた。
 そして、カダルが幸せな子供でないことも。
 黙ったままのセンカをしばらく見ていたユーシスだったが、静かに諭す。
「……街に出たら引き取ってくれる人間を探すから。我々のことは忘れ、貧しいながらに平穏な生活に戻れ」
 それは、ユーシスの優しさなのだろう。
 しかし、センカは素直に頷けず視線を下げる。
 ユーシスはセンカの答えを聞かずに踵を返す。
 しばらくして洞窟に戻ったセンカは、膝を抱えたカダルを黙って見つめると、同じように膝を抱え込みギッと強く目を瞑った。

 翌朝、馬が一頭通るのがやっとという道を行き、しばらくすると急な斜面だが、なんとか地上に上がれる場所に来る。恐らく逃げ道をいくつも見つけている為、知っている場所なのだろう。
 しかし、カダル達の一行がそう思うということは王側も見張っており待ち伏せている可能性がある。先にユーシスが一人で上がり、兵がいないことを確認してからワーディに抱えられたカダルとセンカを乗せた馬が登った。
 落ちても仕方ない崖を登り、心臓がばくばくしたセンカだが自分の後ろにいるカダルの心臓が平常なことを感じると、こんな大変な思いをたくさんしてきたことを知る。
 そこからは無言で進む一行。しばらく大河沿いを進んだが、途中から森に入り街の方角に馬を進める。だが、一刻ほど進むと先頭を行くユーシスが馬を止めた。身を固くしたセンカの腹に腕を回したカダルは大丈夫だ、というように自分に引き寄せる。息を詰めていたセンカの目に剣を抜くユーシスの姿が映り、無意識に後ろのカダルに身を寄せ目を閉じる。
 戦ったことなどないセンカはどうしていいか分からない。
 震えるセンカだったが、カダルが両腕で囲い耳元で囁いた言葉に瞼を開く。
「巻き込んでごめんな」
 はっと顔を上げると、唇を噛んだカダルの表情。
 おそらく自分のせいで仲間が危険な目に遭うたびに、こんな表情をしていたのだろう。
 センカは激しく頭を振って口を開く。
「おまえは、カダルは悪くない!」
 センカの言葉に目を見開いたカダルに続ける。
「おれ、ひどいこと言ってごめんな!」
 ここで死ぬかも、と思ったら、絶対に言わなければと口から出た言葉。
 カダルはじっとセンカを見つめた。
 張り詰めた空気。
 葉が風に揺れる音だけが響く空間。
 その空間に、聞き覚えのある声が響いた。
「カダルさま~!」
 見つめ合っていた二人ははっとし、声がした方に視線を向ける。すると草むらの中から泣きながら駆け寄る少女の姿。
「リアー……ナ」
 小さく少女の名前を口にしたカダルはセンカから手を離すと馬から飛び降り駆け寄ると、転びそうになったリアーナを抱き締めた。
 センカも慌てて馬から降り走り寄る。
 しかし、震えているカダルの体に足が止まる。
 センカの視界に映るのはリアーナが泣きじゃくっている顔。しかし、カダルの背中はそれ以上に……泣いているように感じた。
 センカはそっと二人に近づくとカダルとは逆側からリアーナを抱き締める。
 その手はカダルの体にも触れる。
 本当はカダルも抱き締めたかったが、小さなセンカの腕はカダルの背中には回らない。しかし、センカの手の温かさを感じたのだろう、リアーナの頭に伏せていたカダルが顔を上げる。そこにあったのはうっすら涙が滲んだ瞳。
 逆にセンカの頬は今、リアーナと同じ程の涙が流れている。
 センカの泣き顔を見たカダルの顔が徐々に歪む。
「がまんしないで、泣いていいよ。……見てるの、おれだけだから」
 センカはカダルの翠の瞳を見ながら口にする。その言葉を聞いたカダルの顔が更に歪み――。
「リアーナも、ないしょだぞ」
 いつも明るいカダルが目の前で嗚咽を上げて泣き始めた様子に、涙が引っ込みセンカを見たリアーナに囁く。
 リアーナにとってカダルは兄であり、大切な運命の皇子であり、常に強い存在だった。そんなカダルの涙を初めて見たリアーナはびっくりしている。しかし、センカの言葉に強く頷くとギュッと抱きつくように、抱き締めた。
 センカもカダルの泣き顔を大人達には見せない、とばかりにリアーナの逆側に移動すると、上から包むように抱き締めた。
 リアーナを追いかけていたジャック。ジャックに近寄ったユーシスとワーディは、子供達の様子に目を伏せ、手を握り締めた。
 落ち着くとカダルは改めてリアーナを見て「無事で良かった」と微笑むとセンカから視線を逸らしユーシス達の元に向かう。
 その背中を見ながらセンカはある決意を固めた。



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