幸せな交差点 前編

幸せな交差点 前編

この話は、「幸せへの扉」とのコラボSSになります。
メインは大輝×幸矢ですが、久しぶりの玲×梛もお楽しみいただけましたら嬉しいです。
「幸せへの扉」を未読の方は、できればこれを読まれた後でもかまいませんので、お時間ある時に読んでいただけると嬉しいです。

前編







「間宮、ちょっといいか」
 夕方のスタイリングルームに珍しい低音が響いた。
 今日は予約も終わり、片付けに入っていた間宮は手を止めて振り向くと、圧倒的な存在感を醸し出している長身の男の姿に首を傾げながら足を向けた。
「大輝がここに来るなんて珍しいじゃん」
 男は、少し前までmoon gardenの青のナンバーワンだった水澤大輝だった。
 ホストを辞めた大輝は、そのままmoon gardenを去るかと思われた。しかし、システム関係に秀でていることを知る佐伯に裏方として引き留められたのだ。
 青のナンバーワンを二年独走していた大輝には、幸矢と2人、約やかな生活を送れば一生働かなくても良いだけの蓄えはある。しかし、金はいくらあっても困らない、と知っている大輝は自分がかっている佐伯の元ならば良いか、と頷いたのだった。
「今夜、空いてるか?」
 間宮の問いに、まるで誘いのような言葉を向けた大輝だが、この男がこんな言葉をかけてくる理由はひとつしかない。
「ゆきちゃんとご飯食べられないのか?」
 それは、大切な恋人を淋しがらせない為だ。
 職場としてはmoon gardenに残った大輝だが、住みかは外に置いている。
 そして、引っ越してからは幸矢を一度もこのビルには連れて来ていない。
 しかし、間宮たちと会っていないかといえばそうでもなかった。
「ああ。
 どうやらホスト時代の客が駄々をこねてるらしくてな」
 大輝の客にはきちんと納得させての退店だったが、やはり未練が残る客もいる。裏方として勤務していることは箝口令が出ている為、そんな客が来店している時には万が一のニアミスを避ける為にビルの外には出ないように佐伯から指示されていた。
 そんな事情がある時にはこうやってここから3つ先の駅に住む幸矢を任せられることもあった。
「今夜は伊織さん会食だって言うから外で済ますつもりなんだけど、いいか?」
「かまわない」
「……駄目なら他に連れて行くけど……二丁目でもいいか?」
 恋人であるオーナーの佐伯と共に夕飯が摂れないと朝に聞いた間宮は、久しぶりにdoorに行こうと決めていた。
 doorとは、佐伯の亡くなった親友の弟がやっているゲイバーだ。そんな場所に未成年の幸矢を連れて行くのはマズイか、とも思うが――。
「翔さんの料理めちゃくちゃ美味いんだよ。
 ゆきちゃんに酒は飲ませないし、絶対、危ない目にはあわせないからさ」
 朝から胃袋がバーテンダーでありながら、一流の料理人でもある翔の味付けを思い出してしまっていた間宮は交渉する。
「ゲイバーっていっても客層はいいしさ、もちろん行く時には店までタクシー使うし」
「……あんたがそこまで言うなら任せる」
 doorの危険のなさを並べ立てていた間宮に小さく笑った大輝は、「そんなに美味い料理なら、9時過ぎになるが、俺も合流する」と言い驚かせた。その驚きのままの言葉がつい口に出る。
「え?マジで来るの?」
「……行ったらマズイのか」
「いや……いいけど」
 以前ならば決して出てこない反応に驚いた間宮だったが、自分の反応に眉を寄せる大輝の人間臭さにどこか感慨深く頬を緩める。
 幸矢との時間が増えるごとに感情豊かになる大輝の変化を、間宮なりに喜んでいたのだ。
「……じゃあ、食べ終わっても待ってるけど……。
 でも、ゲイバーだからな。
 自分の外見は自覚して来いよ」
「慣れてるさ」
 それに軽く流した大輝は、今は髪色も戻し、服装もカジュアルな装いだが、やはり圧倒的な美貌は損なわれていない。
 逆に以前は冷たい人形のようだった美貌が、今は男の艶を滲ませながらも触れることが許されない気高さを感じさせ、以前よりも威圧感は増している。
 そんな大輝があのdoorの空間に存在している様子を思い浮かべた間宮は小さく呟く。
「でも、お前来るなら真木も連れて行って玲さんと遥ちゃんと並べてぇ…」
 間宮が知る4大美形。(カインのオーナーの御影も同等の美形だが、顔見知り程度の為に除外されている)その4人が並んだ様子を思い浮かべるとうっとりため息が出る。
 しかし、真木は予約があるし遥も深夜にならないと来ないことが多いから幸矢が一緒ではその時間までは無理だな、とすぐに諦めるが、違う楽しみが浮かんだようだ。
「大輝見慣れてるゆきちゃんの、玲さんを見た反応ってどうなんだろう」
 玲は自分ですら、初めて目にした時にはその美貌に息を飲み固まったほどだ。
 大輝とはタイプが違うとはいえ、甲乙つけたがい美貌の人間を前にした幸矢の反応を思い浮かべる。が――
「想像出来ないな」
 きょとんと目を見張り素直に「きれー」と言いそうな気もするし、大輝で見慣れている為に反応が薄い気もする。
「どっちかなぁ」
 目の前の大輝を無視し、1人で想像し始めた間宮だったが「俺だ、今夜は間宮と夕飯を食べろ」と、こちらも間宮を無視して幸矢に電話しはじめた大輝の声で我に返る。そして、目の前で硬質な美貌が柔らかく綻ぶ様子を見つつ、今夜はなにを食べようかな、とdoorのメニューを頭に思い浮かべた。


「マミーっ」
「ゆきちゃん、久しぶり~」
 moon gardenからタクシーで大輝のマンションに向かい、エントランスで幸矢を招き入れた間宮は、2週間程ぶりの笑顔に「癒される~」と抱きつく。その距離まで近寄った為に幸矢が着ていた厚手のニットコートに付いた毛に気づくと問いかける。
「ナッキーは大人しくお留守番するの?」
 ナッキーとは引っ越した後に飼い始めたトイプードルの子犬だ。名づけ親は真木だが、大輝はナツと呼んでいる。
 幸矢に甘えたな子犬を何度か見ている間宮は、おいてきて大丈夫なのか?と今さら気になったようだ。
「出かける時には管理人さんがあずかってくれるから大丈夫」
 その問いに笑顔で答えた幸矢だが、管理人がペットを預かってくれるシステムがあるマンションと聞き、大輝が幸矢と住む為の場所にどれほど金をかけているかが分かった。引っ越し先を最初に決めた時に幸矢が不安になったほどの高級マンションは、安全面はもちろん、そういった融通のきくサービスがいくつもあるのだろう。
(本当、メロメロだねぇ)
 今日はなにを食べに行くの?とわくわくした様子で瞳を輝かせる幸矢を見ながら、大輝の溺愛ぶりを垣間見て頬を緩めた間宮だったが「なんでも美味しいところだよ」と頭を撫で、更に瞳を輝かさせたのだった。

「ねぇ、マミー。
 ……男同士で抱き合ってるよ、いいの?」
 数10分走るとタクシーは二丁目のエリアに入った。すでに7時を回った街は普段、人目を気にしてオープンに出来ない触れ合いを楽しむ人間が多くなってきている。しかし、男同士で恋人なことは外では口にしたら駄目だ、と覚えた幸矢は(恥ずかしいことではないが、いらぬ冷たい風を幸矢に当てないように大輝に言い含められていた)不思議そうに呟く。
 その様子に、大輝がきちんと常識的なことも教えていることを知り微笑んだ間宮は混乱させない答えを口にする。
「この街ではいいんだよ。これから行く店ではゆきちゃんも、大輝が大好きって大きな声で話しても大丈夫だよ」
 それに嬉しそうに顔を綻ばせた幸矢は、じゃあ、と間宮に問いかける。
「そこで、マミーも伊織さん大好きって話してるの?」
「おっと……あ~と」
 思わぬ切り返しに間宮は焦る。
 付き合う前から通うdoorではあまり2人の話はしない。
 すでに店の人間や親しい常連は感づいているだろうが、あえて付き合い出したと宣言していない。元々、付き合う前から会えば隣で飲む仲だった為に、仕事の合間をぬって時間を合わせて訪れても、特別気にはされていなかった。
 そして、元々自分はタチだと公言していた間宮的にはどこか照れがあり、あえて自分からは言いふらしてはいなかった。
「えっと、おれらの話はいいから、ゆきちゃんの引っ越した後の生活聞かせてな」
 笑顔で照れて逃げる間宮に首を傾げる幸矢だったが、運転手が「お客さん着きましたよ」と車を停めた為に意識を変えたのだった。


「いらっしゃいませ。
 間宮くん久しぶり」
「こんばんは、この時間に玲さんいるの珍しいね」
 扉を開けば、来客の気配に足を運んで出迎えてくれたdoorの美貌のオーナー玲に間宮は、常連らしい問いかけを挨拶に変える。
 違う街でカフェの経営もしている玲は、昼間はそちらに顔を出す為に夜は9時過ぎにならないとdoorには顔を出さないことは周知のことだった。
「最近は昼間の店をなるべくあちらのスタッフだけに任せるようにしてるんだ。
 ……こんばんは」
 同じ問いをされても他の客ならば「皆さんにもっとお会いしたいですからね」と綺麗な笑みを向ける玲も、間宮相手だからか事実を口にしながら親しげな笑みを向ける。しかし、この店に佐伯以外と共に訪れたことがない間宮の後ろに立つ幸矢に気づいた玲は、僅かに目を見張るが、優しい微笑みで挨拶を口にした。
「こ、こんばんは」
 それにぎこちなく頭を下げた幸矢に、おっと視線を下げた間宮。もしかしたら大輝を見慣れている幸矢ですら、玲の美貌に目を奪われたか?と反応を窺う。
 しかし――。
「マ、マミー…こんな綺麗なお店、おれが入っても大丈夫?」
 大輝に食事に連れて行ってもらう店とは違う雰囲気は、幸矢には未知の世界だったらしい。どうやら、初めてmoon garden以外に足を踏み入れる夜のお店に気後れしただけのようだった。
 証拠に――
「綺麗って誉めてくれてありがとうございます。
 うちは大歓迎ですよ」
 屈んで目を合わせて招き入れてくれた玲に肩から力を抜き「お、お邪魔します」と頭を下げた様子から、玲自身には緊張していないようだった。
「さすがに毎日大輝を見てれば美形に免疫つくのか」
 その様子に呟いた間宮の言葉は玲の耳には入らなかったようだ。いや、玲は違うことに意識が向いていたようだ。
「……間宮くん、なにこの可愛い子」
 演技ではないと分かる、スレていない幸矢に玲は目を細めながら問いかける。
「伊織…いや、佐伯さんとこで知り合ったんだ」
 しかし、間宮の答えに、幸矢の境遇を察したのか「そう」と小さく頷くに留めると店内に誘う。
「では、中にどうぞ。
 カウンターでいいかな?」
「あ、この子未成年だけど大丈夫かな?」
 足をカウンターに向けた間宮は今さらマズかったかな、と慌てるが玲は幸矢に「ここどうぞ」と中央に手招くと緩く首を振った。
「お酒は飲ませないし、保護者がいるから平気だよ。なんといっても、俺が16から来てた」
 安心させるように軽く口にした玲に間宮は笑顔を浮かべると幸矢を座らせ肩を寄せた。
「ゆきちゃん、ここはなんでも美味しいから好きなの頼みな」
 それに応えるようにメニューが差し出される。
「間宮さん、お久しぶりです。
 今日は煮込みハンバーグがお勧めになってます」
 穏やかな低音に視線を上げれば、moon gardenの青のホストに引けを取らない男前が佇んでいる。
「翔さん、お久しぶり。
 煮込みハンバーグって前に遥ちゃんが食べてたやつ?」
 あれ美味そうだったよね、と時間帯が合わない為にあまり翔の食事をがっつり食べられない間宮は、以前、常連の遥が食べていた様子にいつか食べたい!と思っていたのだった。
「じゃあ、おれは煮込みハンバーグにするわ。
 ゆきちゃんは決まった?」
 メニューの中の美味しそうな料理の写真に目を輝かせる幸矢に口元を緩めながら促す。顔を上げた幸矢は煮込みハンバーグの隣の写真を指差し注文する。
「これ…えっと、チーズハンバーグお願いします」
 その注文にどことなく口元を緩めた翔は「かしこまりました」と頷き調理場に向かった。

「マミー、ちょっと分からないとこがあるんだけど教えてもらってもいい?」
 料理が出来上がってくるまで、自分にはカクテルを幸矢にはオレンジジュースをオーダーした間宮に持ってきたトートバッグを見せた幸矢に「いいよ」と軽く頷きカウンターにスペースを作り取り出したドリルを広げる。 
 その飲み屋らしくない光景に興味を持ったのか、間宮から2つ離れた椅子に座っていた客が視線を流す。見た目はごく普通の多少顔が整った二十代前半のサラリーマン。
 最近忙しく頻繁には訪れていない間宮は知らない客だった。
 しかし、入ってきた時からちらちらと視線を投げて来ていたことから、秋波を送られていることはうっすら感じていた。だが、doorで色恋を絡ませるつもりはもうない間宮は気づかぬふりをしていた。
 だが、あからさまにこちらを眺める視線を感じていた為にあまり良い印象は受けなかったのだが、やはり幸矢が取り出した『小学6年生』と書かれたドリルを見た瞬間「なに、あれ。小学生用!?」と間宮とは逆隣に座っていた、こちらは何度か見かけた客に大袈裟に話かけるのを視界の端に入れ、逆側で幸矢の肩が揺れるのを見ると小さく舌打ちする。
 それを見た玲も眉を寄せ視線を流すと隣の男は常識的だったのか「よせよ」とたしなめ「すいません、こいつフラれてやけ酒なんで」と苦笑を向ける。
「フラれてない!フッんだよ!」
 と喚いて訂正するが、自分が冷たい視線で見られていることに気づき押し黙る。しかし、どうやら間宮の連れの幸矢が面白くないらしい。
 自分はフラれたのに、地味な幸矢がイケメンの間宮の隣にいることが許せない、と思っているらしい。どうやら、そこそこ顔が整っている人間特有の、自分よりも下だと思う人間は蔑すむタイプらしい。
 このままでは幸矢を傷つける言葉を向けかねないなと席を移動しようと玲に告げようとした時、調理場の向こう側の裏口が開き、そこから冬の空気が流れこんで来た。
 視線を上げれば、白い息を吐きながら買い物袋を揺らして入ってくる梛の姿が目に入る。
 そして、間宮と目が合うと、地味な顔立ちだが見ている者を明るくする笑顔を広げカウンターに駆け寄る。
「間宮さん、お久しぶりです!」
 梛の出現で、微妙になりかけていたカウンター周囲の空気が変わる。
「ひさしぶり~」
「お友達ですか?」
 ほっとした笑顔で手を振った間宮の隣を見ると、とても友人には見えない幸矢相手に自然な笑顔を向ける。
 すると、先ほど馬鹿にするような言葉を向けられ萎縮しそうになっていた幸矢の口元に小さく笑みが浮かぶ。
「マミー…はえっと」
 しかし、自分と間宮の関係をどう説明すればいいのだろう?と隣を伺い見る。
 その視線に笑いかけながら梛に視線を上げ「そ、可愛い若い友達」と自慢気に「幸矢君って言うんだ」と紹介した。
「よ、よろしくお願いします」
 間宮の紹介を受け、飲み屋では似合わない真面目な態度で頭を下げた幸矢に梛はそっと玲に視線を流す。
 そこにあった小さな頷きに、多少、佐伯のバックグラウンドを教えてもらい、その佐伯と間宮が付き合っていることを知る梛は、玲同様幸矢の境遇を察し小さく頷き返した。
 しかし、それは同情などで腫れ物に扱うような接し方をするつもりなのではなく――。
「こちらこそ、来てくださってありがとうございます」
 あくまで、幸矢に合った接し方を心がける、という2人だけに通じる思いやりの合図だった。
「あっ、懐かしい。
 でも、今の勉強道具ってやけにおしゃれですよね」
 その思いのまま、ドリルを視界に入れた梛は特別意識して普通扱いするのではなく、ただ思ったことを普通に口にする。
 梛の言葉も取りようによっては間宮の隣の男と同じ意味合いの言葉なのだろう。しかし、出る言葉のニュアンスの差が人間性の差なのだろう。
 幸矢も、梛の言葉や視線には萎縮せず「でも、難しいから分からないこと多いんです」と算数の問題を指さす。その問題がおそらく自分に聞こうと思っていた問題だろう、と覗きこんだ間宮だったが、学生を離れて何年も経つ為、とっさにはなんだか分からない。
「……梛くん…分かる?」
 ちらっとばつが悪そうに視線を上げれば「えっ」と焦りながらも身を乗り出し見ると「どうだったけなぁ」と呟きながらも問題を解くべく集中しだす。
 だが、はっと隣に佇む玲に向き直り「仕事中にすいません!」と慌てる。
「大丈夫。
 まだそんなに混んでないから、教えてあげなよ」
 玲は梛の変わりに洗い物に手をつけると優しく頷いた。
 2人のやり取りに、駄目だったかな、と困った視線を向けてきた幸矢にゆるく首を振り「大丈夫」と微笑んだ間宮はトートバッグからノートとペンを出し「これに説明書いてあげて」と梛に手渡した。
 説明されだいぶ理解したが、詳しく説明を書いてくれるという梛の好意に甘えると、タイミング良く翔の料理が出来上がった。
「わぁ」
 まだ口に入れていないが、漂う匂いがすでに胃を刺激する。幸矢は目を輝かせるが梛が書いてくれているのにとフォークに伸ばした手を止める。 その意味を察した梛は顔を上げると「温かいうちに」どうぞ、と笑顔で頷いた。

「美味しい」
「だねぇ」
 すぐに間宮の煮込みハンバーグも出来上がり、2人は同じ表情と声音で口の中に広がる幸せを伝える。
 その言葉は調理場の翔にも届き、小さく口元を綻ばせた。
「幸矢くんは勉強はなにが得意なの?」
 洗い物が終わった玲は間宮と少し交換しながらdoor自慢の料理を堪能している幸矢に話かける。
 一気に食べてしまう雑な食べ方は体に悪いと大輝に教わってからはゆっくり食べるようになった幸矢は、水を一口飲むと食事を更に美味しくするような柔らかな笑みを浮かべている玲に答える。
「えっと……国語…かな?
 この前、大輝に字が綺麗だって誉めてもらったから…」
 嬉しそうに答えた幸矢に「大輝って?」と答えがほぼ分かりながら玲は促す。
「え…えっと大輝は…えっと」
 それに、はにかみながらも困った様子の幸矢に横からからかう様に間宮が口を挟む。
「ゆきちゃんの彼氏だよな」
「へぇ、彼氏誉めてくれていいね」
「えっと……はい」
 間宮の言葉と玲の言葉、両方にはにかみながらも頷いた幸矢をカウンターの中から見た梛は心の中で呟く。
(玲さんと最初から普通に話す人、初めて見た…)
 この店に初めて訪れる客は大抵、とんでもない美貌のオーナーが居るという噂を聞きつけやってくる人間が多い。
 その噂を裏切らない玲の美貌に大抵の人間は緊張し、しゃべれないか自分を売り込もうと肩に力が入りすぎるか、どちらかだ。
 梛自身は出会ったシチュエーションが普通ではなかった為、まだしゃべれた方だが、我に返ってからはやはり緊張した。
 そんな玲相手でも普通に会話をする幸矢に感心しながらノートに問題の解き方を書いていた梛だったが、来店を知らせれる扉の音に視線を上げ「いらっしゃい……ませ」と微笑む。
 しかし、最後がぎこちなくなってしまった梛に店内の客の視線が入り口に向かう。
 瞬間、一様に目を見張りざわついた客たち。
 しかし、店内の客とは違った意味で目を見張った間宮――そして、隣の幸矢は勢い良く立ち上がると入り口に駆け寄った。






| 2018.06 |
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール

桜崎彩世

Author:桜崎彩世
FC2ブログへようこそ!

web拍手

最新記事

カテゴリ

月別アーカイブ

FC2カウンター

リンク

検索フォーム

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード

ページトップへ