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祈りの花 19

<祈りの花 19>


 ユーシス達が戻ると他の買い出しも全て終わっていた。目立つことを避けたい為、別々に出立する。
 馬車の揺れが来る時よりも激しく感じるのは、ユーシスの指示で急いで街を離れている為だ。
 一番奥に座ったカダルの隣で、買い物の一覧と箱や袋に詰まった買い出した品を確認しながらバルーンが先ほどの再会を口にする。
「それにしてもすごい偶然でしたね。子供の頃の知り合いってことは、十年くらい会ってなかったんですよね? よく分かりましたね」
「そうだな、でもリューンは子供の頃から大人びてたから、印象はあまり変わらなかったな」
 カダルの言葉に、確かに子供の頃の面影が濃く残っていたリューンの……いや、王子の容貌をユメールは思い出す。それと共に、先見で見た、ユーシスが刺された光景を思い出すと手を握り締めて隣を見る。
 ユーシスの横顔は考えを巡らしていることが分かる真剣さだ。恐らく、貴族と思われるリューン側の人間にカダルの正体がバレていないか、心配しているのだろう。
 そんなユーシスの横顔を見てユメールは両手を握り強く祈る。
 何事もなく、この時間が過ぎ去りますように、と。
 これ以上、ユーシス様を王子に関わらせないで、と。
 ユメールの祈りを感じたかのように馬が更に速度を上げたのか、馬車の揺れが激しくなる。
 あまりの激しさにユーシスが視線を外に流す。すると仕切りがガタガタと外され前に乗っていた一人が慌てたように叫んだ。
「敵襲です!」
「っ!」
 ユーシスは素早くカダルとユメールを庇うと、外の様子を見る為、荷台の後ろに向かう。だが、それと同時に外から切っ先が僅かな隙間から入り、強引に閂を外し扉が外に向かって開かれた。
「下がれ!」
 ユーシスは鋭い声で中の者に告げると素早く剣を抜いて入り込もうとする人間を躊躇いなく切る。
 ワーディとバルーンは奥にいるカダルを囲み剣を抜くと攻撃に備える。
 ユメールは震える身体を叱咤し、黒髪を掴む。
 なんでもいい!
 敵の攻撃が分かる光景を!
 すると、すぐ先の未来が脳裏に浮かび上がり――見えた光景に慌てて振り返る。
「カダル様! 後ろ!」
 ユメールが叫んだのと、前の仕切りが外され、血まみれの御者が投げ込まれる。それと同時にカダルに向かって切っ先が降り下ろされる。
 間一髪、ユメールの声に助けられたカダルは横に避ける。敵はバルーンの剣が弾き、馬車の中に入り込まれることは阻止する。しかし、バルーンと対峙している人物は見覚えがあった。
 そう――リューンの供の一人だった細身の男だった。
「くっ、やはり王側の人間だったのかよ!」
 バルーンが舌打ちしながら剣を打ち込む。
 細身の男はその言葉にいやらしく笑いながら答えた。
「王側もなにも、あの方は王子だ」
「!?」
「お前の事も、王の先見から言われ、運命の皇子と分かっていて幼き頃、近づいたのだ」
「う、嘘だ!」
 その言葉にカダルは間髪入れずに否定の声を上げる。
「リューンは……俺と普通に会える世にすると言っていた。………たとえ王子だったとしても王の考えとは違うはずだ!」
 カダルは強い眼差しで断言する。リューンが王子である、と聞かされ動揺がないわけではない。だが、貴族の子息であろうことは服装や物腰で幼い頃から感じていた。だとすれば、いつか会えたとしても敵対する可能性を考えていた。しかし、問題は立場ではなく中身なのだ、とすでにカダルは自分の中で決めていたのだ。
「どうかな、この指示を出したのは王子だ」
 しかし、カダルの気持ちを嘲笑うかのように刺客は告げると素早く吹き矢を放つ。刺客の言葉に動揺したワーディやバルーンはそれに反応出来なかった。
 小さな針がカダルの首に刺さる。
「カダル!」
 外からの攻撃に応戦していたユーシスが叫ぶが、毒矢だったのだろう、カダルの身体が傾く。それを支える為に出来た隙に刺客が馬車に入り込む。
「それは、この辺りで解毒がないケナムの毒だ。運命の皇子もここで終わりだな」
 土色になっていくカダルの顔色にワーディが叫びながら剣を刺客に向けるが背後を向きながらも簡単に弾かれてしまう。刺客はそのまま視線を巡らせユメールを見つけると足を向ける。
「黒い髪。……先見か」
 黒髪を見られたユメールは懐から出して握っていたユーシスの短剣を刺客に向ける。
 なんとしても倒さねば!
 なんとしても……!
 自分が変えた未来の為にカダルの命を渡すわけにはいかない!
 この時間、本来ならば命を落とすのはユーシスだった。しかし、その未来を変えた為に違う命を奪われそうになっている現実にユメールの全身が震えていた。
(持っていくなら僕の命を持っていけ!)
 心の中で叫びながら短剣を向けるがユメールの腕など軽くかわされる。笑いながらユメールの腕を掴んだ刺客はそのまま連れ去ろうとする。
「北の城から奪われた先見だな。返してもらうぞ」
「待て!」
 だが、鋭い声と共に突き出た切っ先が刺客の足を止める。
 外から入り込もうとする敵を全て倒したユーシスは、素早く詰め寄るとユメールの腕を掴む刺客の手に向かって剣を向ける。それを身軽な動きでかわした刺客だったが、ユメールの腕は放してしまう。その隙にユメールを抱き込んだユーシスだったが、その肩越しに刺客が口角を上げるのを見たユメールが叫ぶ。
「ユーシス様!」
 ひらりと反転した刺客は違う剣をユーシスに向けていた。ユメールの声で横に飛び退いたユーシスだったが、右腕を剣の切っ先がかする。チクリとした程度の為、すぐさま体勢を整えようとしたユーシスだったが、膝がガクリと落ち、身体から力が抜けていく。
「ユーシス様?」
 咄嗟にユーシスを支えたユメールは、苦しそうな表情を見て不安に満ちた声で呼ぶ。
「くっ……貴様!」
 剣に毒が塗られていたことに気づいたユーシスが刺客を睨むが、すぐに息が荒くなり、剣で身体を支えているのがやっとの状態になる。 激しい揺れにユーシスは背中から馬車の側面に叩きつけられる。
「ユーシス様!」
 ユーシスの腕の中にいたユメールは衝撃に顔をしかめるが、ユーシスの切られた腕を見る。
 うっすら血が滲む程度の浅い傷。しかし、傷の周囲が青紫に変色してきていた。
「これは……」
「皇子に仕掛けた毒と同じ物が塗ってある」
 刺客は口角を上げて口にすると、悠々とユメールに近づく。
 意識が途切れ始めているユーシスの頭を抱きながらユメールは刺客を見据える。
「近づくな!」
 今まで上げたこともない大きな声は震えている。しかし、絶対ユーシスを守る、という気持ちで占められたユメールからは鋭い殺気が出ている。
 バルーンやワーディはカダルの容態に意識を向けている。その為か、いくらユメールの殺気が強くても自分の有利を確信したのだろう刺客の気配が少し緩む。その瞬間、刺客が入り込んだ前面から矢が放たれた。
「ぐっ…生きていたか」
 背中から射たれた刺客が振り向いた先には、自分が殺したと思ったもう一人の御者が腹から血を流しながらも弓を構えていた。急所を外れていた為、なんとか馬がこれ以上暴走しないよう手綱を握りながら中の様子を伺っていたのだ。
「誰か、手綱を……」
 しかし、弓を放ったことが限界だったのだろう。傷を負った腹に手を当てると前に身体を倒す。慌てて支えたバルーンが荷台から運転台に移ると手綱を握った。刺客はワーディが切り、絶命を確認すると懐を漁り解毒剤を探す。しかし、身に付けていた物は武器のみ。眉を寄せてカダルとユーシスを見る。
「ユーシス様! ユーシス様!」
 ユメールが狂ったようにユーシスの名前を呼んでいた。
 その姿からは神秘的な印象など消え去っており、ワーディは目を細める。しかし、今は他のことを考える余裕などなかった。
「バルーン、とにかく戻って解毒剤を探すぞ!」
「わかってます!」
 外に向けて叫びながら仕入れてきた薬の箱を開けて消毒液をユメールに渡し、自分はカダルの首に振りかける。
「とにかく、少しでも毒を薄めるんだ!」
「は、はい!」
 ユメールはユーシスの服を破り消毒液を振りかける。その時、微かに眉が寄ったユーシスにユメールが顔を近づける。
「ユーシス様! 頑張ってください!」
 声が聞こえたかは分からないが、動いた手に気付き握る。その手が弱々しくだが握り返してくれたことに涙を堪えながら、ユメールは必死に名を呼び続けた。

 一行が戻るとユーシスとカダルは共に屋敷の最奥のカダルの部屋に寝かされ、極秘で幹部だけが集められ医者に診せるが、難しい顔をされて首を横に振られる。
「ケナムの毒は解毒剤をもってしか消し去ることは出来ません。……ユーシス殿はまだ少量の為、三日は猶予がありますが、皇子は……もって半日」
「半日だと!?」
「馬鹿な!」
 医者の診断に皆有り得ない! と声を上げる。
「北にしかないと言われるケナムの解毒剤だ、半日で手に入るわけないだろう!」
 すでに男の指示で足の速い馬の乗り手に北に向かわせているが、どんなに早くても往復で三日はかかる。
 ユーシスにはギリギリ間に合うかもしれないが、カダルは……。
「運命の皇子を失うわけにはいかない!」
 ようやく王に勝てる希望が見えてきたのだ。ここでカダルの存在が無くなれば、カダルの人柄を慕って集まった豪族達が散り散りになる可能性が高い。そうすれば、元の独裁に支配される世が今後も続く。
「なんとか手はないのか!」
 バルーンは床に拳を叩きつける。
「……もしかすると、ですが」
 深刻な空気に躊躇いがちな医者の声が響く。
「ハラサの当主ならば解毒剤を持っているかもしれません」
「ハラサだと?」
 眉を寄せたのはワーディだ。それもそうだろう。ハラサ一族とは南の領地で名の知れた一族だ。もとは王に仕えていた地方の豪族だったが、摂取されるばかりの制度に嫌気をさした現当主が納税を拒否し反王政を掲げた。当然、王が何度も討伐を向けているが、毒に秀でている一族の為、風に乗せた毒や矢に塗った毒に討伐部隊はことごとく退散を余儀なくされていた。
 それだけ毒に精通している一族ならば、ケナムの毒も手にしているだろうし、解毒剤も所有しているだろう、と医者は考えたのだ。
「……確かに北から戻るのを待つより、ハラサ一族のアジトの方が確実に近いな」
 ここから三刻程の山にハラサ一族のアジトがある。しかし、共に反王政を掲げている者同士とはいえ、友好関係を結んでいるわけではない。
「……ハラサの当主は美しい者が好きだって有名だな。……先見殿が頼んだら解毒剤を譲ってもらえるんじゃないか」
 バルーンが冷たい視線をユメールに向けた。
 それまでユーシスの手を握り、強く祈っていたユメールは、突然話を振られて顔を上げる。
 普段しているベールはなく、ユメールの泣き腫らしても美しい顔に皆、視線が吸い寄せられる。
 バルーンは膝で詰め寄ると、自分が何を出来るのか分からぬといったようなユメールに静かに問いかける。
「先見殿は、あの男が王子だと知っていましたね?」
「っ」
 突然の問いに白を切れず息を呑んだユメールの息の音が響く。
 それを聞いた幹部達の気配が鋭いものに変わる。
「どういうことだ?」
 ワーディが訊くとバルーンは店先でリューンを見た時のユメールの様子を口にした。
「あの様子は何か隠しているように見えた。……あの男が王子だと知っていたんじゃないですか?」
 違うか? とバルーンは鋭い視線を向ける。
「先見殿どういうことです!? まさか我らをたばかっていたのですか?」
 状況的にバルーンの言葉が正しく感じる。だとすると、隠していたユメールが何か画策したのかと疑いの目を向けても仕方あるまい。
「ち、ちがいます!」
 しかし、その疑いだけは解きたい、とユメールは激しく首を振る。
「では何故、あの者が皇子の知り合いだと……王子だとあの場で知らせなかったんです!?」
 それを話してくれていたら、状況は違ったかもしれないとワーディが詰め寄る。しかし、話していたら……。
 変えた筈の未来に再び繋がってしまったかもしれない、と口に出せないユメールは苦しそうな表情で口を閉ざす。
「……まぁ、今は時間がないので、その話は後程じっくり聞かせてもらいます。とにかく他に方法がない。あなたをハラサのところにやり、好きにさせる代わりに解毒剤を所望します。よろしいですね」
 ユメールの様子は見ている者に、悲痛な感情を持たせるものだったがバルーンは冷たく言い放つ。
「バルーン……それは……」
 ユメールにも何か事情があったのだろうと感じていた幹部の一人のマルラがとりなすように口を開く。
「運命の皇子と先見、価値などどちらが上か決まってるだろう」
 しかし、バルーンのその言葉に黙るしかない。
「簡単ですよ。少し我慢して身体に触れさせてやればいいんです」
 その言葉にユメールは自分が何をさせられるか分かった。
 蘇る北の城での記憶。
 しかし、ユメールは躊躇などしなかった。
 自分が引き寄せた未来。
 ユーシスだけ助かればいいだなんて思わない。
 本来、死ななくていい人。その脳裏に今だに戻らぬセンカの笑顔が浮かぶ。
 これ以上……失くしてはならない。
 その為ならばなんでもする。
「私がお役に立てるなら参りましょう」
 自分が今の状況を救うことが出来るならばと躊躇いもなくユメールは頷いた。
 まったく抵抗しないユメールに戸惑う空気が流れる。
「あの……先見殿……なにをされるか分かって……?」
 良心が痛むのだろうアルマックが辛そうに口を開くが最後まで口にできない。
「慣れています」
 しかし、ユメールは頷くと短く口にし、ユーシスの手を一度強く握る。
(必ず解毒剤をもらってきます)
 強い決意を感じたのかは分からないが苦し気なユーシスの瞼が小さく動く。しかし、それが開くことはなく、ユメールは手を離して立ち上がるとバルーンを促す。
「一刻を争います、行きましょう」
 ユメールの過去を知り一瞬目を見開き、僅かに苦い色を瞳に浮かべたバルーンだったが、素早く立ち上がると足の悪いユメールを「失礼」と抱き上げ部屋を後にした。
 残された幹部達は一様に難しい表情を浮かべている。それは、皇子とユーシスを救うことが出来るかという不安と……。
「……何年も捕らわれていたんだったな」
 低い呟きは、ユメールが今までどんな扱いを受けてきたか知ってしまった為。
 人々が苦しまない世にする為に集まった者達にとって、ユメールを差し出したことは大きな棘となり胸に刺さる。
「……なんの為に……城から連れて来られたか分からぬではないか」
 吐き捨てるように呟き床を殴るワーディ。それは、ハラサの非道さを聞き及んでいるからだ。
 美しい娘を拐っては正気を失うまで苛むと知り、ユメールを差し出した己達。
「先見の力を貸り……窮地に陥れば非道と呼ばれるハラサに差し出し……ただ利用するだけの為に連れて来たようではないか」
「……それでも……確かに皇子を失くすわけにはいかない」
「そうだが!」
 分かっていることだが、なんとかならんのか、と頭をかきむしる。
 その時、慌てふためいた廊下を走る足音が響き、勢い良く扉が開かれた。
「っ、お前……」
 現れた人物は肩で息をしながら部屋を見回し、横たわる二人の姿を見ると走り寄った。
「カダル! ユーシス様!」
 叫んだ声は少年の物。
「どういうことだよ!?」
 険しい形相で振り返った少年にワーディがすまぬ、と頭を下げる。
「お前にくれぐれも頼むと言われていたにも関わらず……皇子を守れず……本当にすまない」
 頭をさげるワーディに少年が殴りかかろうとする。
「センカ!」
 それを後ろからはがいじめて止められた少年は肩で息をしながら幹部達を睨む。少年は北で別れたセンカだった。
「お前達! 揃いも揃って何してたんだよ!?」
 感情を抑えることが出来ず責めるセンカに幹部達は言い訳せず唇を噛む。それは、今までセンカがカダルを守る為に何度も命を危険にさらしてきたことを知る為だ。
 あの場にもしセンカが居たら、おそらく一瞬たりともカダルから目を離さず、どんな死角からの攻撃も防いだだろうと思うからだ。それほど、センカはカダルに自分を捧げていた。
 センカの荒い息が響く室内。そこに静かな声が響く。
「センカ殿」
 振り返ったセンカは入り口に佇んだ美女を見てなんとか落ち着こうと息を深く吸う。
「……すいません」
「いや、それより二人の容態を診させてもらってもいいか?」
 美女は室内に足を踏み入れると落ち着ついた声音で問いかける。
「センカ、こちらは?」
 しかし、見も知らぬ人間を簡単に運命の皇子であるカダルに近寄らせるわけにはいかないと幹部が立ち塞がる。
 センカはワーディを掴んでいた手を放すと美女の元に向かい紹介した。
「北の領地の元当主のご息女のラパス殿です。我らにお味方してくださる為、共に来てもらいました」
 センカと共に居たのは山賊の棟梁のラパスだった。
 ユーシス達を逃がした後、サンザの部下達に捕まったセンカはしばらく拷問に近い仕打ちを受けた。頬には殴られた痕があるが、服の下は鞭打たれた傷が広がっている。部下達は運命の皇子のアジトをセンカに吐かせようとしたのだ。おそらくサンザの仇討ちというよりも、それを持って王に賞金をもらうつもりだったのだろう。
 ユーシス達が挨拶もなく出立したことを不審に思ったラパスが部下達に話を聞き、サンザの部下が暴走したことが分かったのが三日後。センカが捕らわれていることが分かったのがさらに三日後だった。
 ラパスは裏切りに続き、自分が力を貸すと決めた人間に部下がした仕打ちに、自分の統率力の無さに打ちのめされた。
「なんと御詫びをすればいいか……本当に申し訳ありません」
 土下座をするラパスに残りの幹部が慌てる。
「棟梁はなにも悪くありません。今回のことは我らの落ち度です」
「いや、私に部下をまとめる力がないからだ。……やはり女の私では無理なのか……」
 悔しそうに奥歯を噛むラパスに、鞭打たれた身体を横たえていたセンカが起き上がり、強い口調で告げた。
「人間なんか自分が一番かわいいに決まってる。だから、金に目がくらむのなんか仕方ない。ラパスさんが女とか男とか関係ないよ」
「だが……」
「……あのさ、前にカダルが……運命の皇子が言ってた。上に立つ人間は孤独なんだなって。でも、一人でも心から信頼してくれる人がいれば頑張れるって」
 センカの言葉に顔を上げたラパスはまだ弱った瞳で問いかける。
「……運命の皇子とはどんな方です?」
「普通の奴だよ。別に神様みたいな力があるわけじゃないし」
「……そのような方に人が集まっているのは何故です?」
 噂では、王に歯向かっているあちらこちらの豪族達が次々と仲間になっていると聞く。それほどの人間ならばさぞや統率力があるだろうと思っていたラパスはセンカが口にした人物像に怪訝な表情を浮かべる。
 センカは少し目を伏せると、苦々しく口にする。
「皆、希望を持ちたいのもあるだろうけど……運命の皇子の名前を利用してる部分もある。……多分、王を倒したら一波乱あると思うよ」
 自分達だけでは王を倒せない。だから、希望の象徴である運命の皇子側についた。当然、平和の為に戦う者が大半だが、やはり――
「全員が同じ方向を向くのなんか奇跡だよ。カダルは良く言ってたよ、割りきりは大事だって。全員から好かれるなんてあるわけないからって。だけどさ、俺とかユーシス様とか、あと他にも数人は絶対に裏切らないって信じられる人間がいるから大丈夫だってさ。ラパスさんだって、居るだろ」
 センカの言葉に大きく頷いた後ろに控えた二人。
「わしは、嬢が北の城に戻ることが生涯の目標ですわ」
 サンザとファラハという信じていた二人に裏切られたラパスの心の傷は深い。
 しかし、幼き頃から守ってくれたファクルの言葉に表情が少し明るくなる。
「私もですよ。……いつか、ヨルンの父になりたいくらいにあなたを大切に思っています」
 シハーブの言葉にラパスは目を見開く。
「うわぁ、ここで告白ですか!」
 センカが大袈裟に騒ぐ。しかし、その瞳は優しくラパスに向けられる。
「ラパスさん、裏切る人間も確かにいるけど、信じることは止めない方がいいよ」
 まだ年若いセンカの言葉だが、とても深い色があった。
 戸惑いながらもシハーブに視線を向けたラパスに穏やかに微笑む。
「今は答えはいりません。それと、心配しなくても大丈夫ですよ。気持ちを受け入れてもらえなくても私があなたを守る気持ちは変わらない。それに、寝返って一時的な金を手に入れるより、王を倒して北の領主になったあなたに仕えた方が将来も安定している」
 冷静に告げるシハーブの計算高く感じる言葉にラパスは小さく笑う。
「王を倒さねば安定はないぞ」
「大丈夫ですよ。倒せますから」
 気負いもなく言い切ったシハーブに虚をつかれたラパスに続ける。
「ですから、棟梁は前だけを見てください。背中は我らがお守りします」
 冷静な中に強く熱い思いを感じた。この思いを疑うようでは全てを疑わなければならない。
 ラパスは深く息を吐くと二人に微笑んだ。
「……ありがとう。これからも頼む」
 そして、センカに向き直る。
「そなたのような部下がいる皇子にお会いしたい。傷つけたお詫びも直接申し上げたいので、共に連れて行ってくれ」
「え、でもラパスさんがここ離れて大丈夫ですか?」
 ラパスの言葉に驚いたセンカに、幹部の二人は止めずファルクが頷く。
「大丈夫だわい。元々は結束力が高い一族。棟梁の留守もしかと守る。そして、棟梁の共には一族で一番の腕前のこやつを付けよう」
 隣のシハーブを見て話が決まった。
 その後、センカの体調が戻るのを待ちこちらに戻ったのだった。
 だが、着いた矢先に仲の良い人間から、極秘に医者が呼ばれたと聞き、センカは慌てふためき駆け込んだのだった。
 この時、ユメールとはほんの少しの差ですれ違いになっていた。







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