祈りの花 14

<祈りの花 14>
 

 良家の夫婦に変装した二人は翌日宿を出立した。
 ユーシスが用意してあった偽物の通行手形は、皇子に賛同している中央の貴族の名前を借りている為、関所も疑われずに通れた。中央に入り丸一日馬を走らせると王都に辿り着く。
 中央とはどんな土地かと思っていたユメールだったが――中央の様子に驚く。それは王都がある地にしてはあまりに荒れていたからだ。その理由はユーシスが教えてくれだ。
「この門の向こう側が王都だ」
 高い塀に囲まれた大きな門の前で馬を止めたユーシスは遠くに見える城を見据える。
 ユメールは自分が今身に付けている服装も豪華で驚いていたが、中を歩く人間は更にきらびやかな格好をしており、周囲を見回し塀の外側を歩く人間との落差に手に力を込める。
「贅沢な暮らしが出来ているのはこの塀の中に住む一部だ。外には貧困層が多く住んでいる。そんな人間や地方の民から絞り取った金や食べ物で贅沢な生活が出来ていることを王に付いている人間は当然だと思っている。そして奴らは絞り取られた後の僅かな金で生活する大変さを知らず、病気になっても医者にかかることも出来ず死んでいく人間がいることなど気にもかけない」
 ユメールの腹に添えた手に力が入るユーシスの声音は淡々としている。しかし、力が入った手でユーシスの胸中を感じとったユメールはそっと上から手を添えた。
「……私に出来る限りのことをやります」
 この地に来るまでの間も貧しい村を通ったが、ユメール自身が裕福な暮らしを知らなかった為、あまり感じるところはなかった。
 地方は自分達で畑を作り自給自足が出来るだけまだましだったせいもある。
 しかし、王都では畑を作れたとしても、それすら差し出す年貢に入れられていたのだ。おそらく中央の民が王都との格差が一番激しいのだろう。しかし、地方に逃げ出したくても手形を用意する金がなく関所を通れない。それ以外から地方に出たとして、見つかった場合、即刻打ち首と決まっていた。中央の貧困層は奴隷と同じだった。
「……必ず倒す」
 ユーシスは静かに、だが強く口にすると手綱を引き門の前を離れる。そして、大きな橋を渡ると、そこに広がる光景にユメールは唇を震わせた。
「食べるものちょうだい」
「薬、持ってない?」
 橋を渡ると子供達が走りよって来たのだ。建物はいつ崩れてもおかしくないほど朽ち果て、地面に直に座り込んでいるのは老人ばかり。
「働き盛りの年代は城の新たな建設に駆り出されている」
 子供達を踏まないようゆっくり馬を進めたユーシスは長屋の影になる場所まで来ると馬から降り問いかけた。
「南門の支給は?」
 どうやら、皇子の一派は最低限の食料や薬を定期的に貧困層に届けているらしい。王都に近いこの土地でそれが出来るのは、皇子に賛同する人間が増え、役人の中でもこちらに味方する人間がかなりいる為だ。
 王を倒すことはすでに夢物語ではなくなっていた。
 しかし、支給を受け取れていないという子供達に嫌な予感が走る。
「昨日行ったら役人に見つかってた」
「……そうか」
 子供達の言葉に眉を寄せたユーシスは南の方角を見る。
 そちらに皇子のアジトがあった。
 本部を突き止められていたらかなりまずい。
「これで足りるか? あとは、2日我慢してくれ」
 ユーシスは馬から街で仕入れた食料や薬の入った袋を外すと子供達に渡す。それを見たユメールは自分が持っていた皇子への土産もそろそろとユーシスに差し出す。
「あの…ユーシス様…これ」
「ああ、それもあったな」
 皇子への土産な為、躊躇ったユメールだったがユーシスは躊躇わず子供に渡す。
 その光景を見て(この為に渡せなかったのか)とこの先を見た【先見】で皇子に土産を渡せなかったことを謝っていた光景を思い出した。
「……もしかして、皇子様の仲間?」
 袋とユーシスを交互に見ながら子供は小さく口にする。
 王の部下ならば皇子の名前を出すだけで捕まる為に、恐る恐るした口調だ。そんな子供にユーシスは頷き膝を付くと頭を撫でる。
「必ず明日には食料を用意する。場所はまた知らせるから頑張るんだ」
 ユーシスの力強い言葉に子供達の顔が明るくなる。その様子にユメールは瞼が熱くなる。
 ユーシスはやはりこの世に居なくてはならない人だ、と。
 王都に来て、王を倒さなければならないことを実感していたユメールは、自分が選択した未来に胸を張った。

「ユメール、一刻を争う為、休まず戻る」
 馬に戻ったユーシスは手綱を強く握ると告げる。
「はい」
 それに強く頷いたユメールは負担にならないよう、身を前に倒すと馬の首に腕を回した。
 ユーシスが手綱を操ると一気に走り出した馬に子供達が手を振る。
「待ってるね!」
「早く王様やっつけてね!」
 風に乗って聞こえる子供達の声に二人は頷くと、皇子のアジトである南領に向かった。


「止まれ!」
 南領地との境にある関所は本来皇子の一派が制圧していた。しかし、子供達からの話で王の兵が居る可能性が大きい為、ユーシスは貴族の手形をそのまま使う。しかし、ユーシスの容貌を見た門番が声を上げて走り寄って来た。
「ユーシス様! おかえりなさい!」
 その声を聞き付けた人間が寄ってくる。南門は北の関所よりかなり小さく、門番も五人程だ。五人共、王兵の格好をしているが全員が皇子の仲間だった。
 ここが取り戻されていなかったことに安堵の息をもらしたユーシスだったが、すぐ状況を確認する。
「城下の子供から食料がもらえなかったと聞いた。何があった?」
 ユメールを残し馬から降りたユーシスは門を通り抜けながら説明を求める。馬上のユメールを気にしながらも男が一人ユーシスの側に寄ると、門番達の詰所の建物に案内する。建物の前に来るとユメールに手を伸ばし腰を抱きながら降ろし馬を預けたユーシスは、詰所に入ると先を急がせた。
「一昨日の夜、密告があったらしく王兵が攻めて来ました。その時、門番に詰めていた五人が捕われ食料を奪われた為、支給が出来なかったんです」
「それにしては、ここがそのままなのは何故だ?」
 今の話ならば、南門には王の兵が居るはずだ、と。
「密告の裏をかいた人間がいたんですよ」
 男は口角を上げると得意気に説明する。
「どうやら功績を焦った奴らしく、上には南門を我らが制圧していることを伝えずにいたらしいんで、あちらに潜んでいるカマーンが懲罰部隊をこちらの仲間で固めてくれたんです。ですが、あちら側の人間に気づれ王に伝えられたらまずいんで、倒されたふりをして、帰り道で兵を拘束したんですよ」
 その為、昨日の支給はしてやれなったのだ、と話す。
「ですが、先程こちらから馬車を出したので、明日の朝には城下に直接配ってやれると思います」
「そうか、大変だったな」
 緊張を解き安堵の息をもらしながらねぎらいの言葉をかけたユーシスを見上げながらユメールはそっと黒髪の布を解き触れてみる。自分の意思で先見が出来るようになったとはいえ、いつどこの未来が見えるかはわからない。しかし、あの子供達に無事に物質が届くのかが知りたかった。
 そっと右手で髪を掴み、子供達を思い浮かべる。
 すると流れ出した、歓喜に湧く子供達の様子にユメールは声を上げた。
「良かった」
 その声に視線を下げたユーシスと門番の男。男はユーシスが今回何をしに皇子の元を離れたのか知らなかったのだが、ユメールの黒髪を見た瞬間、目を見張った。
「黒髪っ……まさか!?」
 驚愕の表情を浮かべユーシスを見れば、静かに頷かれる。
「今や数では王の軍に引けを取らない我らだ。あとは、あちらの先見の裏をかければきっと勝てる」
 力強いユーシスの言葉に目を輝かせユメールを見た男は、先ほどは黒髪に目を奪われた為に、見なかったベールの下の美貌に思わず魅入る。視線が合ったユメールは、はっとし、表情を引き締めた。するとユーシスと二人だった為に、つい戻っていたあどけなさが消え神秘的な佇まいになった。
 男は呆けたようにしばらく魅入った後、一歩下がると頭を下げた。
「先見殿、どうか我らにお力をお貸しください」
 男の態度に焦るユメールだったが、ユーシスが腰を抱きながら頷いた為、大人しく男と向き合う。
 ユーシスが自分に求めた先見像。王の元にいる同胞を思い浮かべ、声を発する。
「力の限り、運命の皇子の為に……そして、私を救い出してくださったユーシス様の為に尽くします」
 丁寧ながら、平坦な口調のユメールは近づきたがい印象を与える。皇子側の人間はほとんどの人間が農民や町民だ。高貴な人間と接したことがない為、澄まして見えるユメールにどこか距離を感じた。
 先程、子供達を心配したユメールの表情を見ていればまた違ったかもしれないが、ベールの下の表情を男は見ていなかった。とはいえ、自分達に利益をもたらす蒼の一族だ。人間性など関係ない、と男はユメールをただ【先見】としてだけ受け入れた。
 男に壁を感じたユメールだったが、ユーシスを見上げればそれでいいと視線で頷かれた為、この態度のまま皇子のアジトに入ることにした。
 その晩は門番の休憩所に泊まり、翌朝運命の皇子のアジトに向けて出立した。
 運命の皇子のアジトはかつて大噴火をしたといわれる大陸一の山の向こう側にあった。
「この樹海の中にお前達の祖先は住んでいたらしいな」
 蒼の一族が噴火を沈めた伝説の舞台である川の脇を通りながらユーシスが語る。
「そして、この川を下った場所に俺が育った城があった」
 自分のルーツとユーシスのルーツの距離の近さを感じ嬉しく思うユメールだったが、その表情は冴えない。
 その理由は――
「センカ、あそこを通っていませんでした」
 門番にセンカが通ったかユーシスが訊いたが、それらしき人物は通っていないという答えだったからだ。
「関所は他にいくつもある。そちらを通る可能性もあるし、様子を伺って潜伏しているかもしれない」
 ユーシスはやはり心配するなと淡々と口にした。
 それでも気になり、何度もセンカの未来を見ようと黒髪を触っているのだが、まったく見えない。だからこそ、ユメールの不安は大きい。 ……命ない者の未来は見えないからだ。
「……あまり無理をするな」
 落ち込むユメールの手を黒髪から離したユーシスは少し呼吸が乱れたユメールを胸にもたれさせる。
 馬に乗りっぱなしで疲労しているところに先見を続けざまにすることを心配する。
「戻れば王都に打って出る戦いの計画に入る。そうなればお前の力を何度も貸してもらうことになるだろう」
 だから、今は温存しておけと言われたユメールは渋々ながら手を下した。
 それから一度だけ休憩し、夕方にひとつの町に辿り着いた。
「この街、丸ごと皇子のアジトだ」
 北の領地から続く川を渡った橋の向こうに、髪飾りを買ってもらった街と同等の賑やかな街が広がっていた。こんなに目立つ街に居て、王に見つからないのか? とユメールは不思議に思い見上げる。ユメールの問いを瞳から読み取ったユーシスは理由を口にする。
「この街は王の腹心だと言われている人間が納めていた。だが、その人間がこちらに付いたのさ」
 口角を上げたユーシスに驚く。
 独裁者とはいえ、そんな地位の者まで裏切っているとは。
「……王の元にいる先見に知られていないのですか?」
「さあな、確かに何度も苦水を飲まされてはいるが、致命傷はない。恐らくこの地は知られていないないはずだ。やはり、力がそこまで強くないんだろう」
 橋を渡りながら話したユーシスは、街に入る大門の手前で馬を止める。この街にはこの橋を渡るか、南の山を越えなければ入れない。もしも王の兵が攻めこんで来たとしても直ぐ様対応出来るよう、門の向こうには弓矢隊が常駐していた。
 橋を渡る段階で注視されていたのだろう。
「ユーシス様、おかえりなさい」
 橋を渡ると門番が笑顔で手を振って迎えた。
「ああ、カダルの方は?」
「上手く交渉出来たようです。協力してくれる仲間を連れて帰ってきましたよ」
 誇らしげに話した後、ユメールを見る。
「その方は……先見様ですか?」
 ユーシスの任務を聞いていた門番はユメールを見ると目を輝かせる。
 ユメールはベールを上げると挨拶を口にした。
「ユメールと申します、宜しくお願い致します」
 皇子の本拠地だと聞いたユメールはベールを上げて微笑んで挨拶をする。その表情を直に見た門番は頬を染めると「あ、あの、よ、よろしくおねがい、します」とカタコトで対応した。
 南門の門番とは違った反応を不思議そうに見て、ユーシスを見上げたユメールに少し苦笑しながらも頷くと開いた門の中に入る為手綱を引いた。
「あれが先見様か、なんとも神秘的な」
「蒼の一族って本当に居ただな」
 街の大通りの道を奥に進むユーシスは有名人なのだろう。注目を浴びている。そして今はベールを上げ黒髪を隠していないユメールを腕に抱いて戻ったことから、離れていた間に行っていた任務の成功を知り興奮気味な空気が流れていた。
「……見た目というのは確かに大事だな」
 その興奮材料にユメールの美貌が大きな割合を占めていることを感じユーシスは苦笑する。
「ただでさえ先見は存在自体が伝説で、神秘的だからな」
「で、ですが……私は神様みたいなことは出来ません」
 あまりに興奮した様子の人々の様子を見て不安から素が出てしまったユメールの背中をユーシスは撫でる。
「大丈夫だ。お前の力が絶対的でないことは、俺や皇子であるカダルは分かっている。それでも、士気を上げるには、掲げる旗が必要だ。それが運命の皇子であり、その皇子に神秘の力がある先見が付いているという現実が、人の心を強くする。お前は自分の役割を理解して、平和を目指せばそれでいい」
「……平和……はい」
 ユーシスの言葉に不安になりながらも頷いたユメールは細く息を吸い込んだ。
 その後も街のあちらこちらからユーシスに声が掛かる。
 落ち着いてきたユメールは、人々の声に応えるユーシスの笑顔が自分が知る笑顔と少し違って見えた。
 振り返って不思議そうに見上げるユメールの視線に気付いたユーシスはどうした? と問いかける。
「いえ……」
 その表情もやはり今までと違って感じる。違いを上手く説明出来ないユメールは首を横に振る。だが、しばらくすると違和感の意味が分かった。あまり感情を表に出さないユーシスだが、この旅で壁を感じたのは出会った当初くらいだ。それが再び薄っすらとした壁を感じる。しかし、それが拒絶ではないということは分かる。
 もどかしいユメールは、もしセンカが居たら聞けるのに、と誰もいない隣を見て、何度目の心配の吐息を漏らした。
 確かにセンカがいたのなら、きっと答えてくれただろう。
 陣営でのユーシスはナンバーツの立場だ。ユーシスが軽んじられれば皇子も軽んじられる。その為、信頼している人間しかいない時でないと気を抜かない、と。
 それが分かるのは、運命の皇子と対面した後、ユメールの世話をしてくれる少女、リアーナと三人になった時だった。

 ユーシスとの距離を感じつつ、与えられた役目をまっとうしようと背筋を伸ばし街で一番大きな建物に入ったユメール。この地の領主の館は北の地で多い石造りではなく、木造の建物だった。
 平屋ではあるが、部屋数は二十程あり、皇子軍の幹部は皆ここに住んでいるらしい。
 馬を降りて笑顔で迎える幹部達にユーシスは違和感のある笑顔で答えならユメールの腰を抱き屋敷に入る。そのまま何人もの出迎えを受けならも足を止めず奥まで進む。
 そして、高い木の塀に囲まれた中庭を抜けようとした時、誰かが奥から走り出してくる足音が聞こえた。
「ユーシス!」
 姿を見せたのは、少年から青年に移り変わろうとしている年齢の人物だった。
 その人物を一目見た瞬間、ユメールは過去の光景が頭に流れ出す。
 金髪の少年と共に居た赤い髪の少年の面影が残る青年に、ユーシスが命を落とす先見がなければ「あの時の!」と声を上げてしまっただろう。しかし、ここに来るまでに、決して運命の皇子と金髪の少年――王の後継者である王子が知り合いだと表に出さないと、心がけていたユメールは表情を動かさず目の前のやり取りを見る。
 皇子である青年は中庭に降り立つとユーシスに駆け寄る。
 身長はユーシスより頭半分ほど低いが、綺麗に筋肉がついていることが分かる。笑顔を浮かべている顔立ちは精悍な部類に入るのだろうが、貴族的ではなく、ユーシスや王に比べると威厳などは感じない。
 この青年が運命の皇子か、と先見では靄がかかっていた光景がはっきりしてくる。
「おかえり、ユーシス」
「ああ、無茶しなかったか」
 皇子が側まで来るとユーシスはそちらに足を向け、ユメールから少し離れる。常に側にいてくれたユーシスが離れた瞬間、胸に走った痛み。皇子を見る眼差しには温かさと優しさが滲み出ており、自分はこの青年の、運命の皇子の為に連れて来られたにすぎないのだ、と実感した。
 しかし、手を握り感情を圧し殺すユメール。そこにもう一人の声が響いた。
「無茶しまくったぞ。だがそのお蔭で南のホーン一族がこちらに着いてくれることになった」
 ユーシスの言葉に苦笑しながら答えたのは、髭を生やした大柄な男だった。ゆったりとした足取りで庭に降りるとユメールに視線を向けた。
「そっちも無事でなにより。……そちらが?」
 ユーシスの目的は蒼の一族の生き残りを王から奪うこと。ならば、連れているユメールがそうか? と黒髪が本物かじっと見てくる。
 強い視線に緊張するユメールだったが、知的な【先見】を演じる。
「ユメールと申します。この度は王の元から救い出してくださり、ありがとうございました」
 ユメールの黒髪から顔に視線を移した男は息を呑んで魅入る。
 ユーシスに意識を向けていた皇子もユメールの挨拶に慌てて視線を向け、やはり見たこともない美貌に目を見張りギクシャクと頭を下げた。
「い、いえ。こちらこそ力を貸してくださり、ありがとうございます」
 見た目も普通だが、反応も普通な皇子にユメールは肩から力を抜く。
 センカが、皇子は普通の奴だと言っていたが、確かにこの皇子ならばユーシスの方が威厳に溢れている。しかし、すぐに気さくな笑顔で手を差し出してくれた皇子に、何故この人物を皆が旗にしているのかを垣間見た気がした。
「大変なことばかりですが、よろしくお願いします」
 差し出された右手は荒れている。おそらく立場など関係なく水仕事などもしていると思われる手。明るいと感じる笑顔だが、真っ直ぐ見つめてくる瞳の奥にはとても強い意思を、王を共に倒しましょうという想いが伝わる。
 ユメールはゆっくり手を上げると、荒れた硬い手と合わせた。
「出来る限りのことを致します」
 その言葉は本心からだった。
 ユーシスの為に。
 ユーシスの役に立つ為に。
 それだけを胸にここまで来たユメールだったが、皇子を前にして自分の宿命を理解した。
 私はこの方を勝たせる為に生き長らえたのだ、と。
 それは胸にある海の石が仄かに温かくなったことからも分かった。
 海の石は大陸が間違った方向に向かおうとする度にそれを修正してきた。それを補佐してきたのが蒼の一族の長の子孫だ。
 ユメールは今、自分に与えられた役目を理解した。
 しかし――
 皇子と握手を交わしながら視線を向ければ、それでいいとばかりに見てくれているユーシス。
 ユーシスがこちらを見てくれたことがなにより嬉しい。
 やはり、ユメールにとっての一番はユーシスだった。
(ちゃんと皇子様を守るから……だから……)
 胸にある海の石を掴んで、未来を変えたことを許してください、と願った。





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